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大分地方裁判所 平成4年(レ)7号 判決 1992年8月04日

控訴人

株式会社拓成

右代表者代表取締役

中島學

被控訴人

甲野一郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金八万八〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年八月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁(被控訴人)

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因(控訴人)

1  控訴人は、昭和六三年四月一八日、被控訴人との間で、被控訴人が控訴人発行のキャッシュカードを利用し、限度額一〇万円の範囲内で、控訴人から繰り返し金銭を借り受けることができることを主な内容とする基本契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

2  被控訴人は、右同日、控訴人に対し、被控訴人の妻春子(以下「春子」という。)の代理人として、本件契約の契約書の連帯保証人欄に春子の署名を代行して捺印し、連帯保証契約(以下「本件連帯保証契約」という。)を締結した。

3  被控訴人は、本件契約に基づき発行されたキャッシュカードを利用して、控訴人から、昭和六三年四月一八日に一〇万円、同年七月八日に四〇〇〇円、同年八月一七日に二〇〇〇円、同月二七日に二〇〇〇円、以上合計一〇万八〇〇〇円を借り受け、同年五月一九日、同年六月二一日、同年七月二五日、同年八月二六日に各五〇〇〇円ずつ弁済した。

4  そこで、控訴人は、被控訴人及び春子を共同被告として、本件契約に基づく残存元本九万九五二八円及びこれに対する昭和六三年八月二八日から同年九月二七日まで年一八パーセントの割合による利息、同月二八日から支払済みまで年三六パーセントの割合による損害金の支払を求める貸金請求訴訟を提起し、最終的には被控訴人に対する関係で勝訴し、春子との関係で敗訴した。

5  被控訴人は、平成元年二月二八日破産宣告を受け、同年八月一一日、本件契約に基づく貸金債務を含む債務について免責決定を受け、右決定は同年九月二〇日に確定した。

6  控訴人が被控訴人との間に本件契約を締結したのは、春子が本件連帯保証契約を締結したからであるところ、被控訴人は、春子が本件契約に基づく被控訴人の債務について連帯保証人となることを承諾しており、かつ、被控訴人が春子から連帯保証契約の契約書に署名押印することについての委任を受けたと虚偽の事実を述べた。そして、控訴人が右判決において、春子に対し敗訴したのは、本件契約の契約書における春子名義の署名捺印は、被控訴人が勝手にしたものであることが控訴審、上告審で認められた結果である。これは、破産法三六六条ノ一二ただし書第二号にいう「悪意ヲ以テ加ヘタル不法行為」に該当し、これにより控訴人は、貸金額一〇万八〇〇〇円から、弁済を受けた二万円を差し引いた八万八〇〇〇円の損害を被った。

7  よって、控訴人は、被控訴人に対し、八万八〇〇〇円及びこれに対する右不法行為の後である昭和六三年八月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被控訴人)

1  請求原因1ないし5の事実は認める。

2  請求原因6は争う。

被控訴人が、本件契約の契約書における連帯保証人欄に春子の氏名を書き捺印した理由は、控訴人の担当社員から、「形式的なことですから、(ここに奥さんの)署名押印して下さい。」と言われたからであり、控訴人は、春子との連帯保証契約が成立しないことを知っていた。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1ないし5の事実は当事者間に争いがない。

二当事者間に争いない事実と証拠(<書証番号略>、原審における控訴人代表者及び被控訴人)によれば、控訴人は、被控訴人が春子の代理人として本件連帯保証契約を締結したので、本件契約をも締結したが、被控訴人は右代理権を有していなかったことが認められる。

ところで、控訴人は、春子が本件契約に基づく被控訴人の債務について連帯保証人となることを承諾しており、かつ、被控訴人が春子から連帯保証契約の契約書に署名捺印することについての委任を受けたと虚偽の事実を述べたのであるから、これは、破産法三六六条ノ一二ただし書第二号に規定する「悪意ヲ以テ加ヘタル不法行為」に該当する旨主張するので検討するに、本件において、本件契約締結行為が、右不法行為に該当するというためには、少なくとも被控訴人の欺罔行為により、控訴人が被控訴人との間で本件連帯保証契約を締結したとの控訴人の主張に加えて、被控訴人が、本件契約に基づき控訴人から借り受ける金員を弁済期に弁済できず、控訴人に損害を加える高度の蓋然性があることを認識して本件契約を締結したことを要し、その主張・立証責任は、控訴人が負担すると解するのが相当である。

控訴人の右の点についての主張は十分ではないし、その証拠もない。請求原因5の事実があったとしても、当事者間に争いのない事実と証拠(<書証番号略>、原審における控訴人代表者及び被控訴人)によれば、本件契約による被控訴人の借入限度額は一〇万円と比較的低額であり、貸付けと返済関係は請求原因3のとおりであること、被控訴人は、平成元年二月二八日に破産宣告を受けているものの、これは本件契約締結から約一〇か月も経過した後であることを考慮すれば、本件契約当時はもちろん各借受け当時、被控訴人において、本件契約に基づき控訴人から借り受ける金員を弁済期に弁済できず控訴人に損害を加える高度の蓋然性を認識して本件契約を締結したと推認することは困難である。

三よって、控訴人の本件請求は理由がなく、これを棄却した原判決は結論において正当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却する

(裁判長裁判官簑田孝行 裁判官大泉一夫 裁判官坪井宣幸)

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